天翔ける君


山吹と作った料理を居間の食卓に並べ終わった頃、千鬼はようやく起きてきた。

三人で食事をし、それから千鬼は恵都を自室へ連れていく。
恵都が眠くなるか、千鬼が用事があると言って出かけるかするまで、人間界についての質問に答える。

千鬼がいない暇になる時間は山吹を手伝った。
電化製品のない家事にも慣れてきたところだ。


基本的に、千鬼の屋敷には明かりがない。
もちろん夜行性らしく夜目のきく千鬼や山吹は支障がないようだが、恵都はただの人間だ。
暗闇に目が慣れたところで、まともに生活できるほどではない。

そんな恵都のために蝋燭を買ってきてくれたのは山吹だ。

最初こそ千鬼に怒鳴ったりしていて怖い男だと思っていたが、実際の山吹は明るくて優しい。
すぐに誤解だと気づいた。

それに引き換え、千鬼はさっぱりつかみどころがない。
山吹よりも多くの時間を共有しているはずなのに全くの謎だ。

「あの、千鬼さん」

呼びかけると、千鬼は珍しそうに眺めていた消しゴムから視線を上げた。



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