天翔ける君
千鬼の私室には机すらないため、燭台は直に畳の上に置いてある。
その頼りない蝋燭の明かりに照らされた千鬼の妖艶な美貌にたじろぎながら、それでも今日こそはと恵都は心に決めていた。
「早く私を食べて」
千鬼は顔色ひとつ変えない。
瞬きすらせずに、その濡れ羽色の瞳で恵都を射抜く。
「私を食べて、終わらせて」
もう一度言うと、千鬼はやっと口を開いた。
「なぜそんなに死にたがる」
恵都は面食らった。
千鬼が死にたがる理由を――いや、恵都自身のことについて質問するのが初めてだったから。
「生きているのが嫌だから」
それだけ言って、千鬼から目をそらした。
「それはなぜだ」
やっぱり問いただそうとしてきて、恵都は息が苦しくなった。
千鬼は自分が納得するまで何度でも聞く。