天翔ける君
「オレは畏怖の対象でなければならない。そんな浮ついた気持ちで近づいてくる者はいないだろう」
千鬼は気づいていないだけなのだろうと、恵都はこっそりと呆れた。
恵都が思うに、千鬼は他人に興味がない。
しかし山吹のような、身内と認めた者には心を開くのだ。
だからこそ、こうやって相談にのってくれるのには大きな意味がある。
「私は千鬼が怖いなんて思わないよ。わざわざお饅頭買ってきて、相談にのってくれるくらいだもん」
「……オレは鬼だ。もっと恐れろ」
そっぽを向いて、千鬼がぼそぼそと言う。
やっぱり千鬼は怖くない。
たまに変化して驚かされるけれど、それでも千鬼は優しい。
「オレも誰かを好きになるという感情は分からない。もしかしたら、そもそもそのような感情は持ち合わせてすらいないのかもしれない」
千鬼の顔は真剣で、どこかさみしそうでもある。
はぐらかしているわけではなさそうだ。
――結婚するんじゃないの?
聞いてしまいたいのに、恵都はやはり言葉にできなかった。