恋するキオク



バクバク暴れる心臓の原因が、目の前の茜じゃないことに身体が違和感を覚える。

オレは、何のためにこうしてるんだろう。

これで何か変わるのか。

ただ、今の気持ちから逃げるだけのために…



力の入った手から、込み上げるように震えが登ってきて。

オレはうな垂れるように頭を下げながら、呼吸を整えようと何度も大きく息を吐いた。

繰り返される口元の刺激と、肌に伝わってくる男とは違う感触。

何もかもがわからなくなる。



なんで野崎なんだ?

別にアイツじゃなくてもいいんじゃないか。

だいたい、好きだとか、そんなふうに思って話してたっけ。

ただ省吾の女だから、ちょっと近づいて遊んでやろうとか…

そういうんじゃ、なかったっけ…。



その方が、楽だったな…




一瞬にして、初めて逢った時の笑顔から涙を流す表情までが頭の中を埋め尽くした。

教室とか、屋上とか、店の前とか。

あいつの姿を見つければ、なんとなく顔が緩んで、そこへ急ぐ自分がいて。

一緒にいれば、自然と気持ちが落ち着いて。



なんでこんなんなってんだ。

なんでオレ苦しんでるんだ。



なんで、
省吾が先だったんだ。



「っバカみてぇ……」



ふと気がつくと、窓の外からは激しい雨の音が響いてきて。

オレのシャツのボタンに手をかけた茜の手が止まると、左の肩にわずかな痛みが走った。



「これ……怪我したのか?」



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