妖刀奇譚
思葉は教科書を閉じ、参考書と問題集の塔に戻して肘をついた。
右手のひらに顎を載せて、ジト目で來世を見る。
その視線に來世が身じろいだ。
「……な、何だよ」
「いや、あたしと來世って、逆だよなーって思ってさ」
來世のコミュニケーション能力はとてつもなく高い。
初対面の人間でも、10分もすれば大抵は仲良くなってしまうのだ。
接客も多い骨董品店の孫娘であるが、思葉には絶対にできない。
自分のコミュニケーション音痴ぶりはよく自覚している。
「なんだよそれ、今さらじゃん。
普通、お店に来るお客と話してりゃ自然とコミュ力はついてくんのになー。
おまえ、ちゃんと店の手伝いしてるのか?」
「してるわよ、一人で店番だって何度やってきたことか。
だけど、手伝いをしていても身につかないものは仕方ないでしょ?
営業スマイルとかは覚えたけど」
「おいおい、それ以外にも覚えるべきもんがあるだろ」
そう言って小さく笑って、來世は再びページに目を落とした。
思葉も仕方なく数学の問題集を睨むがまったく頭に入ってこなかった。
沈黙が流れるけれど、それを苦には感じない。
やはり、よく関わり合う関係同士になると無言の時間にも慣れてくるものだ。