ピアノを弾く黒猫
「そうなの…。お父様は?」
「父は行方不明です」
「行方不明…?」
「ええ。
母が亡くなる前に…」
まぁ生物学上は父親でも。
俺はあんな人、父親だと思わない。
アイツが“あんなこと”したから、俺は―――。
「じゃあ、あなたが弟さんや妹さんを?」
「はい。
あの子たちにとって俺は、兄である前に親みたいなものです」
そこまで言って、ハッと気が付く。
何で俺、見ず知らずの人に話しているんだろうか?
「ごめんなさい。変な話をしてしまって」
「いえ、構いませんわ。
ただあなたに1つ、忠告しておきたいの」
「忠告、ですか?」
「ええ」と女の人はふっと笑った。
「大事なものをなくさないようにね。
なくしてから後悔しても、遅いから」
「大事なもの…ですか」
「ええ。
例えば、君が1番大事な…人、とかね」
俺の大事な人……。
『黒田くん!』
何故かあの人の笑顔と、声が浮かんだ。