Love nest~盲愛~
すっかりお相手をするのを忘れていた。
これが、世界最高峰ロマネコンティの魔術なのかもしれない。
私は静かにグラスを置き、彼の方に向き直ると。
「お前の好みが分らず俺の好みで選んだが、気に入って貰えたようだな」
「っ…………はい、とても美味しく頂いております。有難うございます」
素直な感想を口にすると、彼は初めて柔らかい表情になった。
鋭い視線を放つ目元は緩やかに下がり、形の良い唇がきゅっと持ち上がった。
不意をつかれて、思わず胸がトクンと弾む。
骨ばった長い指先が再びグラスに伸び、優雅に持ち上げる。
そんな仕草1つにも見惚れてしまい、またもや呆然としてしまった。
彼がグラスを置き終えたのを見届け、意を決して口を開く。
「あの、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
松川さんに名前を聞いておくのを忘れてしまった。
こんな初歩的な事を忘れるだなんて、最悪だわ。
恥かしさを忍んで口にすると、彼は私をじっと見据えて不敵に微笑んだ。
「名前を教えたら、お前は何をしてくれるんだ?」
「へ?」
「世の中、タダより高いモノは無いだろ」
「………そう、……ですね」
まさかまさかの展開に、完全にパニック状態に陥る。
名前を伺うだけで、見返りを要求されるだなんて……。
そんな事、考えてもみなかった。
私は必死に妥当な答えを探していると、