Love nest~盲愛~

「日本酒は飲めるか?」

「……少しでしたら」


たった一言。

それも、視線を合わせることなく淡々と聞かれただけ。

昨日も帰りが遅かったから、仕事が忙しい時期なのかもしれない。

こんな風に私と食事をする時間も、もしかしたら惜しいのかもしれないと思ったら、申し訳なさを覚えた。


「お仕事、お忙しいのですか?」

「………ん」


やはり、そうなんだ。


「お忙しい中、食事に誘って下さってありがとうございます」

「………えな」

「はい」

「昨夜は悪かったな」

「……いえ。もうお体は宜しいのですか?」

「平気だ」

「あまり、ご無理はなさらぬように」

「……心配か?」

「……はい」

「フッ」


パソコンのモニターから視線を上げた彼は、優しい笑みを浮かべながらパタンッとパソコンを閉じた。

そして、スマートフォンでどこかに電話をかけ、『頼む』とだけ伝えた。

程なくして料理が運ばれて来た。

先ほどの電話は、配膳を頼んだものらしい。


色鮮やかな旬のお料理が並ぶ。

先附、前菜、椀、造り……、久しく口にしてない食材が目の前に運ばれて来て、思わずうっとりと見惚れてしまう。

父親が亡くなる前は、よく外食をしたものだ。

メイン料理は伊勢海老のポシェ。

見事なまでに大ぶりの伊勢海老が、器の上で舞うかのように綺麗に盛り付けされている。


彼のお猪口にお酒を注ぐ。

仕事中だからなのか、殆ど口にしていないが、それでも全く飲まないわけでは無さそう。


「えなも飲むか?」

「……はい」


お猪口を持ち上げると、彼がそれにお酒を注いでくれた。

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