Love nest~盲愛~

エントランスで彼を出迎えるため待っていると、程なくして黒塗りの高級セダン車が到着した。

車から降りた彼は少し疲労感を滲ませたように見える。

彼がどんな仕事をしているのか、聞いたこともない。

今まではあえて彼のパーソナリティに深入りしないようにしていた。

もちろん、仕事や友人関係も含めて、知ろうとせず。

自業自得といえばそうなのかもしれない。

この贅沢な生活を送れるのは、彼が仕事をして稼いでくれているからだ。

そんな簡単な事も考えもせず、表面上でしか彼を見ていなかった事に改めて気付かされた。


「お帰りなさい」

「ただいま」


初めて彼が帰宅の挨拶を返してくれた。

常識的に考えたら当たり前の事なのに、こんな些細な事ですら新鮮に感じる。


「私が預かります」

「……では、お願い致します」


昨夜同様、白川さんから彼の鞄を受け取り、彼の後を追う。

今日も彼の部屋のドアは開いている。


「失礼します」


ムスクのアロマが焚かれているのか、いつも何処からともなく薫ってくる。

彼はネクタイを緩めながら私を見据えていた。


「ここに置いておきますね」

「顔色が悪いな。具合でも悪いのか?」


化粧で誤魔化したつもりなのに、彼は気づいたようだ。

一度に沢山の事を考えすぎて、少し気持ちが悪い。


「いえ、大丈夫です」


何事もないように振る舞うしか出来ない。

それでなくても、彼は仕事が忙しくて大変な時期なのだから。

これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。

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