Love nest~盲愛~
甘いムードを誘うメロディー。
黒服がむやみに顔を出す事の無いVIPルーム。
そして、黒服責任者の松川さんでさえ緊張する程の人物だという事。
そんな人相手に、私はどうしたらいいの?
“冗談だよ”と軽く流して欲しいと切に願っていても、一向に次の言葉が無い所をみると、やはり本気のようだわ。
所詮、新人の私が上客の接客をするだなんて、無理な話。
多分、私はこの店の生贄にされたに違いない。
『くれぐれも、粗相の無いように………いいね?』
松川さんの言葉がリフレインする。
この密室の中で、大金と引き換えに従順に応えれる子を……そういう事だったのね。
脳内で弾き出した答えは、私の人生を大きく変えようとしている。
けれど、私には断る理由が思いつかない。
だってここを辞めたら、後は風俗で働く道しか残ってないのだから。
風俗で不特定多数の人を相手にしなければならないのなら、ここで我慢するもの同じ事。
私はどんな事があっても、決して『逃げない』と決めている。
だから、生きる為に手段は択ばない。
*******
私が生まれてすぐに母親が息を引き取った。
元々病弱だった母が、命と引き換えに私を産んでくれた。
父親は母親のいない私を不憫に思い、苦労をさせまいと一心不乱に仕事をした。
だがそれが祟って、私が大学2年の夏に帰らぬ人となった。