Love nest~盲愛~
「生憎、俺は冗談が嫌いだ」
「っ………」
真っ直ぐ射竦められる視線は、安直な考えをバッサリと切り捨てた。
彼は唖然とする私からそっと腕を解き、優雅に立ち上がって。
「少し待ってろ」
「………?」
彼は入口のドアへと歩み進める。
そして、ドアを開けるとすぐさま姿を現した松川さんと小声で話し始めた。
そんな彼の背中を見つめ、背中に冷たい雫が流れ落ちる。
粗相どころじゃない。
失態もいいところだわ!!
名前さえ知らないのに、物凄い事になっているんじゃないかしら?
緊張で尋常じゃないくらい喉が渇く。
彼が松川さんと話している間に、目の前のワインをほんの少し口に含むと、カチャッとドアの閉まる音がした。
「んっ……」
思わずワインを吹き零しそうになり、口元に手を当てた。
そして、ほんの僅かにワインで濡れた指先をハンカチで拭おうとすると……。
いつの間にか隣りに腰を下ろした彼が、濡れた指先をペロッと舐め上げた。
「んッ?!」
物凄い至近距離で色気を纏う美顔に迫られ、左胸から警告音がけたたましく鳴り響く。
お酒のせいなのか、彼の色香のせいなのか。
顔が一気に熱を帯びて、視線をどこに置いていいのかすら分からない。
すると、
「俺がお前の―――――最初で最後の客だ」
「…………………ふぇっ?」
耳元を甘く犯すバリトンボイス。
もはや考える事自体、放棄した方が良さそうだ。
「それは、どういう意味でしょうか?」