Love nest~盲愛~
私を乗せた車が停止した先は、敷居の高い有名なホテル。
エントランスにはブラウンの制服を身に纏ったドアマンが待機しており、車の停止に合わせて丁寧にドアを開ける。
微笑みと共に優雅に腰を折るドアマンを横目に車を降りて。
白川さんと共にホテルのロビー前を通り過ぎ、エレベーターで上階へと歩み進める。
エレベーター特有の浮遊感と、今朝以来の彼との再会に左胸が警告音を発し始めた。
白川さんの誘導で通された場所は、8階にあるフレンチレストラン。
入口に既に十数人が列を成す中、私は奥の個室へと案内される。
重厚なガラス扉が開いた先に彼がいた。
今朝見たのと同じスーツを身に纏い、パソコンに向い仕事をしているようだ。
「若様。えな様をお連れ致しました」
「……ん、ご苦労」
私の到着に合わせるようにパタンとパソコンを閉じて、腕時計をそっと外した。
私は白川さんのエスコートによって席に着いた。
「コースで頼んであるが、食べたいモノがあれば、遠慮せずに頼め」
「………はい」
一応フリだけでもと思い、メニューを手にして視線を落とす。
けれど、緊張のあまり、お腹が空いていない。
メニューに記されているどれを見ても、食べたいとは思えなかった。
すると、すぐさま料理が運ばれて来て、会話する苦痛から逃れるようにそれを口に運ぶ。
味なんて解らない。
美味しい筈の料理も、緊張の前には勝てなかった。
震え気味の手先を懸命に動かし、カチャカチャと音を立てないように細心の注意を払って。