上司に秘密を握られちゃいました。

「わかりました。すぐに行きます」


真山さんは電話を切ると、私に声をかける。


「お客様が、君に会いたいと売り場に来ていらっしゃる。一緒に来てもらえる?」

「私、ですか?」


裏方ばかりだった私に会いたい客って?

不思議に思ったけれど、彼のあとに続いてフロアを出る。

従業員専用のフロアは、閑散としていて少し寂しい。
華やかなデパートの裏舞台は、意外と地味なのだ。


「藍華」

「……はい」


誰もいない廊下で、彼は私をそう呼んだ。


「早乙女様なんだ」

「えっ?」

「藍華を呼んでるの」


あの、リアンで会ったお客様の、早乙女様?


「私に、なにか……」

「うん……あのさ」


バツの悪そうな顔をした真山さんは、「ラッピングをっていうのは、多分口実だな」とボソリとつぶやく。
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