ホルガリズム
「へぇ。」だの「ほぉ。」だのと、終始相槌を打っている彼女の存在にハッと気付き、恥ずかしくなる程の熱心な長話ぶりに自分で一番驚いた。


そして更に、その驚いた顔のまま彼女に向かって呟いてしまったのだ。


「喋り過ぎ・・・ました。」


何のボキャブラリーもない僕の一言に、彼女は吹き出した。



相反して苦笑いしか出来ないでいる出来損なった僕の笑顔をよそに、彼女は僕のホルガを手にとり、もうすぐ濃紺の闇が訪れるであろう空を、そのファインダーの中にとらえた。



「よっしゃ、ミラクルショット。」



気合いを入れたオッサンの様な掛け声とともに立ち上がった彼女は、何故か自信満々の笑みで、座ったままでいる僕の方へ勢い良くホルガを差し出した。



「これはきっと素晴らしい写真が撮れてるに違いないよ。」



曖昧に頷く僕の前で嬉しそうにニヤつく彼女には、このカメラにフラッシュは付けていないだなんて、とてもじゃないが言えなかった。

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