あやしやあんどん
 置かれたのは、ドーナッツだった。
 サトリは、そのドーナッツを見てからハクトの顔を見つめた。
 サトリは知っていた。ハクトの一番の好きなものがドーナッツだということを。なぜ、それを今まで忘れていたのだろうと思った。


「ドーナッツとは、またいいチョイスですね。青山さん」

「えぇ。二人にとって、今日は最高の日になりますので、腕を振るいました」


 二人は知り合いなのか楽しそうに雑談をしている。しばらく話した後、青山は店の奥へと消えていった。


「食べよう、サトリ」

「でも」

「裕太は大丈夫。サトリには僕がいる。君のすることに誰も文句は言いはしないさ」

「ハクト・・・」

「思い出してくれればいいんだよ、ね」


 目の前にあるドーナッツをハクトは食べる。幸せそうに食べるハクトにサトリは懐かしさを感じていた。
 そして、今までこの店で食べたものを思い出す。和菓子と金平糖。それは、ハクトが好きだったもの。サトリと二人で食べたもの。
 自分が忘れてしまった時間をもう一度、取り戻すためにサトリはドーナッツを食べた。























「今日は、これだ!」

「また、甘いもの・・・」


 これで3日目だと、うんざりした顔でサトリはハクトを見つめた。


「白川くん、甘いもの好きなんだ」

「そ。二人はバカにするけどね」


 今日のお菓子は金平糖。様々な色が小さな瓶に入っていた。その瓶をサトリは勿体無く思いながら見つめていた。


「食べないの?」

「うん。でも、なんで私に持ってくるの?」


 サトリの問にハクトは笑って答えた。


「サトリが好きだからだよ。残された命はサトリのために使いたいんだ」

「嘘だ」


 ハクトはサトリが好きだった。理由を聞かれるとハクトはいつも困ったようにしていた。しかし、ハクトはあの日をきっかけにサトリと話すようになっていた。


「サトリは優しいよ。僕は知ってる」

「でも、私は白川くんに」

「ハクトでいいよ。それに僕は、納得してる」


 ハクトは金平糖を食べながら話す。
 ハクトは意外にも物知りで、サトリはハクトから『死神の名付け親』という物語を知った。ハクトは必ず甘いお菓子を持ってきた。それを二人で食べることが定着しつつあった。

 そして、ハクトが死んだその日。
 ハクトはいつものようにお菓子を持ってきた。


「今日はドーナッツな」

「美味しそう」

「だろ?僕の一番好きなもの」


 二人でドーナッツを食べた。
 いつもは明るく色々と喋るハクトだったが、今日は静かに食べていた。
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