あやしやあんどん
「貴方は長生きをするわ」


 そう伝えると、裕太は笑った。
 良かったと、何度も呟いた。


「なんで、私に聞いたの?」


 サトリは初めて裕太に話しかけた。裕太はサトリの問に直ぐに答えた。


「シロより長生きして、香苗を守ってやりたいから」


 その答えを聞き、サトリは裕太の気持ちに気づく。彼が幼馴染みの香苗に好意を持っていることにだ。


「そ、そうなんだ」


 そして、自分がついた嘘に動揺する。
 サトリの目に見えている裕太の命の灯火は激しく燃えていた。激しく燃えているからこそ、残りが少ないのだ。
 こういう人がどういう状態なのか、サトリは嫌でも知っている。
 彼には逃れられない死が待っている。若くして病で亡くなってしまうかもしれないという可能性。
 サトリの頭の中が真っ白になって、その後、裕太が何を言っていたのか、どういう風に過ごしたのか、全く覚えていなかった。






















「サトリ、ごめん。ごめんなさい」


『あぁ、またあの夢だ』


 サトリは夢の中にいた。うずくまる誰かの背中をただ、見つめている。その誰かを知っているはずなのに、サトリはどうしても思い出せない。
 頭の中に何かモヤがかかったようだった。


「僕は君を待ち続けるよ」


『僕?貴方は誰なの?』


 懐かしい声。手を伸ばせば届くはずなのに届かない。うずくまる誰かは、いつのまにか泣くのをやめて立っていた。
 顔は見えない。というより、思い出せない。
 大切な思い出をサトリは思い出せずにいた。忘れてしまいたいほど、胸に突き刺さる悲しい思い出を持つその人のことを、サトリはまだ思い出せない。
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