君をひたすら傷つけて
 高取くんはベッドに身体を預け、何かの本を読んでいたみたいで、私が病室に入ってくると、そっとをれを膝の上に置いた。

「藤堂さん。今日はいつもに比べたら遅かったね。今日は来ないかと思ったよ」

「待っててくれたの?」

「そうだね。待ってたかも。でも、もう来ない方がいいのかもしれないと思ったりもする」

 病室に来るのをあまり歓迎してくれてなかった高取くんが『待ってた』と紡ぐ言葉に私がどれだけドキドキしているか分かっているのだろうか?恋心を募らせるのか知っているのだろうか?


「数学を教えて貰わないと困るもの。もうすぐ大事な試験があるの。だから、今日もお願い」


「今日も分からないのがあるの?」

 私はバッグの中から数学のテキストを開くと、そっとその問題を指差す。その問題を見て、高取くんはニッコリと笑った。

「本当に分からないの?この前解いた問題と似ているけど?」


「昨日の晩に解いたら、間違えたの。ここの問題は毎年、頻出のものだから私にも分かるように教えて」


「そうだね。僕に分かるといいけど」


 そう言って高取くんは私の手からシャーペンとノートを取ると少しの沈黙の後、静かにノートの上に綺麗に数字を並べる。そして、ニッコリと笑って説明をし始める。落ち着いた声が静かな空間に優しさが満ちる。説明の合間に私を見て、理解しているのかと確認しながらだった。
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