君をひたすら傷つけて
「私も高取さんの幸せを望んでますが」

 篠崎さんは鏡越しにニッコリと微笑んだ。

「そっか、それなら高取のマンションに戻ったらどう?今の高取を見たら、雅さんは驚くよ。この数か月で高取は変わったから」

 リズもエマも言わなかったことを篠崎さんははっきりと口にした。私が好きにしたらいいという二人とは違って、篠崎さんは高取さんの幸せのことを言っていた。やせ我慢も、融通が利かないも、陰ながら支えるは兎も角、自己犠牲真っ最中なんて、お兄ちゃんらしくない。

「それは……」

「別に俺に言う必要ないよ。後は二人で話したらいい」

 篠崎さんは綺麗な微笑みを浮かべ立ち上がった。そして、私は篠崎さんの映っていた鏡越しの向こうにお兄ちゃんとリズの姿を見た。前の現場を終わらせて一緒にスタジオ入りをしたところだったようで、お兄ちゃんは視線は篠崎さんではなく、私に注がれていた。ここにいるはずのない私がいることで、お兄ちゃんも思考回路が止まってしまったようだった。

 それは私も同じで、篠崎さんといつも一緒にいるから、別のスタッフが居た時点でお兄ちゃんはこのスタジオには来ないと思っていた。急なお兄ちゃんの登場で、固くなってしまって、胸の奥がきゅっとなる。そのうち会うかもしれないと思っていたけど、今日、篠崎さんが別のスタッフと一緒にスタジオ入りしたから、お兄ちゃんと会わないだろうと高を括っていた。

 でも、お兄ちゃんが来ないとは篠崎さんは言ってなかった。
 
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