君をひたすら傷つけて
「リズ……」

 リズはこの状況が起きることが分かっていたようだった。篠崎さんのドラマの撮影伸びるかもしれないと言っていたのも。雑誌の取材の時間が被っていて、篠崎さんのスタイリストが二人いることも嘘じゃない。でも、嘘ではなく、巧妙に隠されていたこともある。

 篠崎さんと一緒にお兄ちゃんが居なかったことで安心させておいて、リズと一緒に登場なんて思いもしなかった。この場でスタイリストを交代したら、私はお兄ちゃんの横に強制的に残される。ここはプライベートの場ではなく、オフィシャルの場からこそ、私に逃げ道はなかった。

 そして、篠崎さんの撮影が終わるまで私の時間は空いていた。

「ここからは私が代わるから、撮影の間だけでも高取さんと話したらどう?今からは篠崎さんとカメラマン、そして、スタイリストとスタッフだけでいいので、マネージャーももう一人のスタイリストも要らないから」

 そんなダメ押しは要らないのに、綺麗すぎる微笑みを浮かべながら、スタジオのライトの方に向かっていく。私はお兄ちゃんの傍に残されてしまった。何を言っていいのか分からずいると、話しかけてきたのはお兄ちゃんだった。

「元気にしていたか?」

 その声があまりにも優しくて、私は泣きそうになるのを必死で堪えた。前と変わらない優しい雰囲気が私を包み、時間が巻き戻るような気がする。

「うん。元気にしていたよ。お兄ちゃんは……元気だった?」

「そうだな。元気だったけど」
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