君をひたすら傷つけて
 ドラマの撮影から、雑誌の撮影まで終わせた篠崎さんはやはり、長時間労働の困憊を見せていた。撮影の最後の方になると、珍しくリテイクが続く。そんな中、私も少し身体の重さを感じていた。いつもなら立って仕事をしているところだけど、少し離れた場所でソファに座ることにした。ソファに座る私に視線を投げたリズは頷いた。

『無理をしないで』

 多少、安定したとはいえ、無理は出来ない。でも、不思議なもので、お兄ちゃんが傍に居るだけで身体が楽になる気がした。カシャカシャと連続でシャッターが切られて行き、篠崎さんがカメラマンの指示に従って優雅に動く。

 篠崎さんの撮影はいつもよりは時間が掛かり、パソコン上でのデータを見たけど、文句なしの出来だった。私は撮影が終わると、リズと一緒に衣装や小物の片付けを手伝い、お兄ちゃんは篠崎さんと一緒に雑誌の編集者とクライアントに挨拶に行っていた。

 衣装にビニールを掛けながら、片づけをしていると、リズは耳元で囁いた。

「高取さんと話せたの?」

「リズのところに高取さんは来ていたのね」

「来たわね。何回も。だから、本当は何も言わないつもりだったけど、情に絆されて雅がどこにいるのか教えてしまったわ」

「私の身体のことは?」

「それは言ってないわ。だって、雅が決断してなかったでしょ。もしかしたら、素敵な状況になるかもしれないのに、それを自分から捨てるわけないわ。雅のことも大事だし、子どもを持てる可能性があることが目の前にあるのに言うわけないでしょ」
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