君をひたすら傷つけて
 マンションで一緒に生活をするようになって、何度か掃除のついでに入ったことはあるけど、それは誰も居ない状態で、こんな風にお兄ちゃんにお姫様抱っこされた状態で入ると、心臓が破れそうに大きな音を立てていた。

「ちょっと。なに?」

「静かに。落としたくないから」

 ベッドの上ではなく、部屋に置いてある一人掛け用のソファに私を座らせると、お兄ちゃんはベッドの横にある。サイドテーブルの引き出しから、白い箱を取り出した。そして、私の前に座ると、綺麗な顔を私に向けた。

 見るからに分かるその箱は私の為に用意されたものだろうか。

「雅。俺と結婚してください。仕事は忙しいし、大変な思いをさせるかもしれない。でも、ずっと一緒に居たい。一緒に幸せになりたい。お腹の子どもと一緒に幸せになりたい」

 箱の中に入っていたのはエンゲージリングで、ダイヤモンドのシンプルなものだった。お兄ちゃんは箱の中から指輪を取ると、躊躇なく左手の薬指に嵌め、私の身体を抱き寄せた。あんなに悩んだことが意図せずぽろっと口から零れてしまった。

「責任とか取らなくていいから」

 自分でも可愛くないと思う。でも、ずっと優しい曖昧な関係でいたから、怖くなる私がいた。子どもが出来たからではなく、愛されて結婚したかった。篠崎さんと里桜ちゃんのように、お互いを思いあうような恋をして、結婚したかった。でも、片思いはしているけど、恋はしていなかった。

< 1,018 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop