君をひたすら傷つけて
「責任とかじゃないから、指輪があるんだよ。雅のことが好きで、一緒に居たいと思ったから、指輪を買った」

「でも、さっきはそんなこと言ってなかった」

「一度逃げられているから、少しは用心する。二度も雅に振られるほどメンタルは強くない」

「冷静沈着と言われているのに?」

「それは仕事だけだよ。実際の俺は、雅の前だとどうしていいか分からなくなることもある。イタリアから帰ってきた夜の俺が本当の俺だよ。俺を見て欲しかった。俺の子どもを産んで欲しかった。俺だけに微笑んで欲しかった。そんなどこにでもいるような普通の男だ」

 心の奥にあった自分の中の塊がゆっくりと解れていくような気がした。今のお兄ちゃんは……。いつものように切れはない。でも、それが愛しいと思った。

「私も好き」 

 私はお兄ちゃんの背中に腕を回すと、キュッと力を込めた。そして、自分の気持ちを言葉にした。それは私の中での最大限の勇気だった。何をどう言ったら、自分の気持ちが伝わるか分から羅内。でも、自分の心に素直になると、浮かぶのはシンプルな答えだった。

「私を慎哉さんのお嫁さんにしてください」

 張り裂けるような鼓動を感じ、自分の腕に力を込める。子どもでもなく、責任でもなく、ただ、大好きな人のお嫁さんになりたかった。これからの人生を支えあい、生きていきたかった。

「嬉しいよ。本当に。愛している。結婚して一緒に幸せになろう」

 そういうと、慎哉さんは私を抱き寄せ、そして、形のいい唇と私の唇に重ねた。温もりの中、私の心はゆっくりと満たされていくのを感じていた。今までの悲しみも喜びも全て消え去り、私には好きだという気持ちだけが残った

「はい。よろしくお願いします」

 幸せになりたいと思う。
 そして、幸せにしてあげたいと思う。


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