君をひたすら傷つけて
「大丈夫。もう、逃げないから。でも、私、慎哉さんが好きだけど、きっと義哉のことは一生忘れられないと思う。それは許してね」

 私がそういうと、慎哉さんはゆっくりと頷いた。その優しい顔に頷き返してから、私はもう一度、義哉のお墓に手を合わせた。静かに目を閉じると、優しい思い出が蘇る。

 出会った時のこと。
 初めてのデート。
 病室で毎日数学の勉強をしたこと。

 そして、義哉を失った日のこと。
 
『義哉。私ね。慎哉さんのことが好きで、結婚することにしたの。もうすぐ子どもも生まれる。一緒に幸せになりたいと思う。これからも色々と大変なことがあると思うけど、二人で一緒に頑張っていく。でもね、義哉。あなたに恋をしたことは一生忘れないと約束するわ。あの時、私はあなたに恋をした。

 君をひたすら傷つけると言った義哉の気持ちは忘れない。

 これからも毎日を大事に生きるから、見守っていてください』

 思い出が優しく、そして、切なく。私の頬に涙が流れた。それを拭うことなく流す私を慎哉さんはただ見つめていた。

「そろそろ行こうか」

 私は自分の頬の涙を拭いながら立ち上がると、慎哉さんはポケットからハンカチを取り出して渡してくれた。

「擦るな。目が腫れる」

「義哉のこと思いだしたら、涙が出ちゃった。こんなに幸せなのにね。義哉の事を思いだすと涙が出てしまうの」

「ん。それでいいよ。無理に堪える必要はない。義哉は今も俺に取っても大事な弟だから」
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