君をひたすら傷つけて
「篠崎さんも映画祭で受賞したからには、これからも忙しくなるだろうし、それに合わせて慎哉さんのマネージャーとしての仕事も忙しくなるでしょ。だから、私のことは気にしないでいいわ。仕事の邪魔をしたくないし、それに私は篠崎さんのスタイリストだから、私の仕事も一緒でよ」

「いや。海じゃなくて、俺の仕事のスケジュール調整をしている。流石に育休は難しいが、雅が出産する予定の数日は休みを取りたいと思っている。最初からリズさんに雅を取られるのは癪に障る」

 私の両親は遠くに住んでいるので、私は里帰り出産はしないつもりだった。でも、慎哉さんの仕事が忙しいから、心配だし、私の身体の事もあるので、出産後はまりえのマンションに住むのを勧められている。産後の肥立ちは大事だからと、リズは張り切っていた。私もそのつもりで慎哉さんを頼るつもりは全くなかった。

「仕事忙しいでしょ」

「仕事は忙しい。でも、妻と子どもがもっと大事だろ。リズさんとまりえさんにお願いするのは仕方ないとしても、最初の数日くらいは一緒に居たい」

「嬉しいけど大丈夫なの?」

「そうだな。それは正直、自信はない。なんせ経験が無いだろ。だけど、今から努力すればどうにかなると思う。とりあえずお風呂の入れ方と着替えの仕方は本で勉強して、父親教室にも通うつもりだから、そのスケジュールも組まないといけないだろ。忙しくなるが、やって出来ないことはない。手先は器用だ」

 何か話は噛み合わないが、私が心配している内容は仕事で、慎哉さんの心配している内容は育児らしかった。

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