君をひたすら傷つけて
 慎哉さんは私を抱き寄せたまま、ゆっくりと目を閉じた。そして、いつもマンションで一緒に寝る時のように背中を撫でる。少し汗ばむ肌を緩やかに撫でてくれた。身体に染み込む優しい感覚は次第に私を眠りの淵に落していく。額にキスをして、いつもより少しだけ強く抱き寄せた。

「こうやって、雅を抱き寄せているだけで幸せを感じる。本当に幸せだよ」

「私も……幸せ」

「少し寝ようか。そんなに朝まで時間はないけど」

 時計を見ると既に日は変わり、いつの間にか一時間以上も過ぎていた。二人で過ごしていた時間は思ったよりも進むのが早かったようだった。

「このホテルのビュッフェって美味しいって聞いたことあるの。楽しみ」

「起きて、一緒に行こう。俺も楽しみだよ」

「でも、今から寝たら寝坊してしまうかも、このまま起きていた方がいいのかな?」

「それはダメだよ。雅は自分のためにも子どものためにも寝るのは大事。徹夜するくらいなら、二人で寝坊して、ランチでもいいと思うよ。さ、安心してゆっくりおやすみ」

「うん。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

「私のこと好き?」

「雅のこと愛しているよ」

 慎哉さんの穏やかな表情に少し安心した私は、抱き寄せられたまま、目を閉じた。そして、緩々と意識が遠のいていくのを感じた。もっと、二人の時間を大事にしたいと思うのに、安心しきった私は思考を奪い、身体の自由を失った。その意識が遠のく刹那…。

『死がふたりを分かつまで……』

 そんな慎哉さんの微かな声が聞こえたような気がした。

『雅を愛することを誓うよ』
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