君をひたすら傷つけて
 私が起きたのはかなり部屋が明るい光に包まれた頃だった。身体を動かすとまだ私の身体には慎哉さんの腕が巻き付いている。いつもは隙を見せない慎哉さんが、私の前では無防備に寝顔をみせている。その寝顔を見つめていると幸せな気持ちに包まれた。

 傍にいるだけで幸せ。

 そんな気持ちに包まれる。

 慎哉さんの腕に包まれて、寝顔を見つめていると、慎哉さんはゆっくりと目を開けた。私よりもいつもは早く起きるのに、今日は私の方が早く起きていた。

「雅。起きていたのか?」

「うん」

 慎哉さんは少し身体を動かすと、私の身体を抱き寄せた。そして、少しずつ意識が浮上してくるようにいつもの慎哉さんが戻ってきたのは表情で分かった。ベッドサイドの時計を見て、フッと息を吐いた。

「俺を起こせばよかったのに。もう、九時を過ぎている。着替えてシャワーを浴びて、朝食ビュッフェは厳しいぞ」

「朝食ビュッフェもいいけど、もう少しこうしていたい。なんか、ずっとこの時間が続けばいいなって思うくらい。幸せ」

 私が慎哉さんに抱き着くと、慎哉さんは珍しく狼狽えた表情を浮かべた。その表情が可愛いと思ってしまった。

「……。俺も……幸せだよ。なあ、雅、もう一泊するか?このまま、もう少し一緒に寝ようか?」

「ううん。朝食ビュッフェを食べて、一緒にマンションに帰ろう。明日はお互いに仕事でしょ。スタジオで篠崎さんの雑誌の撮影が入っているし、私もその撮影には参加する予定になっているの。出産ギリギリまで働いてから産休に入るから、頑張って働かないと」
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