君をひたすら傷つけて
「なんか、現実に戻るようなこと言うなよ。新婚旅行にも行けない分、こうやって二人で幸せな時間を過ごしてもいいと思う。きっと誰も文句は言わないよ。言われないくらいには働いてきた」

 そういって、慎哉さんは私をもう一度夢の中に引き摺りこむようなキスをする。そして、その優しい誘惑に満ちたキスに抗いながら、私は愛を身体中に感じていた。

「だって、幸せなんですもの。だから、頑張らないといけないって思うの。慎哉さんが傍に居てくれるだけで頑張れる。スタイリストとして頑張って、慎哉さんの横に居て恥ずかしくないようにしないといけないと思う」

 そういった私を慎哉さんはぎゅっと抱き寄せた。

「可愛いことを言って、俺を煽った責任を取らないとな。ビュッフェはランチに変更だな。今は雅を離せない。チェックアウトギリギリまでこうしていて、ランチを食べてから帰ろう」

 煽ったりしてないって、私が答える前に、慎哉さんは答えを自分の唇で塞いだ。私も一緒の気持ちなのにそれを言わせてくれないのは少し狡い。でも、優しい強引さに私は惹かれてもいる。きっと、どんな慎哉さんでも好きなのだと思う。

 ギリギリの時間までベッドで戯れ、バタバタとシャワーを浴びてからチェックアウトをする。慎哉さんらしくない行動にまた愛しさを感じた。

 ホテルのランチは美味しくて、量は入らなかったけど、オレンジジュースを飲みながら、軽めの食事をする。目の前にいる慎哉さんは十数分前の慎哉さんとは別人のようにコーヒーを飲んでいる。隙のない仕草を見ていると、昨日の夜の甘さが幻のように感じた。
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