君をひたすら傷つけて
 時間になり、リズが小春を教会の中に連れていき、私は少しの間だけ、一人になった。教会の準備が出来たら、私を迎えに来てくれることになっている。私は窓辺に置いてある椅子に座るとその窓から見える空を見つめた。

 空には雲一つないような青が広がっている。その空を見ながら、私は義哉のことを思いだしていた。義哉のことを思うと胸の奥が少し痛くなるものの、昔のように掻きむしられるような痛みを感じることは無くなっていた。それは時間であり、慎哉さんの包むこむような優しさがあるからだと思う。

 慎哉さんと小春との三人での生活は毎日色々なことがあるけど、喜びと幸せに包まれている。毎日を大事に生きること。それを教えてくれたのは義哉だった。

 今の私を見て、どう思うだろうか?

 私の幸せを、慎哉さんの幸せを祈っていた義哉はきっと、優しいから、『幸せになって』と『兄さんをよろしく』っていう気がする。ひたすら傷つけてと綴られた手紙の中にあったように私はきっとどんなに幸せになっても義哉のことは忘れないと思う。それは慎哉さんも同じことだと思う。

 前向きに真っすぐ生きていく。

 自分のことを信じて生きていく。

 そして、長い人生を歩み切って、振り向いた時に、後悔しないで、積み重なった幸せがあるように。

 私は生きる。
 それが私が義哉を忘れないということ。
 心に刻んだ思いだということ。

 零れた涙をレースのハンカチで抑えると、控室のドアが開いた。

「お時間です」

「はい」

 私はまた今日、一歩。前に向かって歩く。
 大好きな人と一緒に……
< 1,103 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop