君をひたすら傷つけて
 時間はいつもよりも短かったけどそれでも義哉はスケジュールを決めているかのように、いつもと同じだけの問題をこなした。説明は速いけど分かりやすい。次々と数学の問題をこなしていくと塾に行く時間になっていた。自分が遅れて来たにも拘わらず、時間の流れがもう少しゆっくりだったらいいのにと思う。そして、義哉がチラッと時計を見て優しい微笑みを浮かべた。

「そろそろだね。今日のところは大丈夫?分からない場所はない?」

 義哉の言う通り塾に行く時間になっていた。私がテキストとノートを片付けると、義哉はベッドテーブルを横にずらした。

「義哉のおかげで分かったよ。塾でもう一度似たような問題をしてみる。で、分からなくなったら、また明日教えて。苦手な問題は少しでも消しておきたいの」

 そう言いながら、私はベッドから降りようとすると、急に義哉の腕に伸びてきて、私の身体をギュッと抱き寄せられていた。


「雅」

 耳元で囁かれる義哉の声に心臓が飛び跳ねてしまい、呼吸の仕方も忘れそうだった。線の細い義哉なのに、抱きしめてくる腕の強さは女の子とは違う男の子の身体だった。義哉の腕の中、私はドキドキが止まらず、苦しくなりそうだった。

「どうしたの?」

「昨日はごめん。今日は来てくれてありがとう。」

「なんで謝るの?」

「雅をこれからも傷つけるから」

「ん。それでいい。」
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