君をひたすら傷つけて
 玄関でお母さんに抱きしめられたまま私はまた泣いていた。

「雅がそんなに泣くくらいに大事な人だったのね。好きな人だったの?」

 私の泣き腫らした目を見れば、お母さんに誤魔化すことなんか出来ない。だから私は自分の心を素直に言葉にすることにした。


「高校の同じクラスの人で私がとっても好きになった人なの」

「どんな人だった?優しかったの?」

「とっても優しくて誠実な人で………いつも前向きだった。とっても綺麗な男の人で、綺麗なのに優しくて頭が良くて、数学が得意で……。思いやりもあって…」

「素敵な人だったね」


 お母さんの温もりに抱かれながら、また少しだけ涙が零れた。あんなに泣いたのにまだ涙が渇く気配はなかった。本当に義哉は素敵な人だった。

「雅を連れてきてくれた高取さんもとっても優しい人ね」

「うん」


「雅は荷物を置いて、先にシャワーしておいで。お腹空いたでしょ。ご飯にしようか」

「うん」

 私は自分の部屋に行き、制服のポケットから義哉のくれたお守りを出すと、それを握りしめてベッドに横になった。するとまた涙が溢れてきた。いくら泣いても止まらない涙がまた零れだした。部屋の外で誰かがいる気配がしたけど、ノックされることもなく、そして、私が食事に呼ばれることもなかった。


 
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