君をひたすら傷つけて
 断ろうと思った。でも、ふと見上げたお兄さんの顔がとっても優しく微笑んでいる。私は無意識にお兄さんに義哉を重ねてしまう。雰囲気は違うのに穏やかな微笑みはよく似ている。

「でも。私、お料理の良し悪しは分からないです。下見とか無理です」

「何の偏見もなしに美味しいか、美味しくないかを教えてくれたらそれでいいんだけど、一人で行くのも無理がある場所もあるんだ。レストランで男が一人で食事をしていたら怖いだろ。懐石とか、フレンチとか一人だったら無理だし」

 一人焼肉くらいなら大丈夫かもしれないけど、一人懐石とか一人フランス料理は厳しいだろう。そう思うと結局私は断ることが出来なかった。そして、車に乗せられて連れて来られた先は薬膳料理の店だった。懐石でもフレンチでもなかった。

 この店は接待に使うとは思えなかった。


 案内されたのは個室の一室だったけど、夕食には早い時間だから予約なしで入れたけどもう少し遅かったら予約なしでは厳しいだろう。しっとりとした佇まいに私は緊張する。

「何にしようか。藤堂さんは食べれるものを食べていいよ」

「え?」


「私も好きなのを食べるから、藤堂さんも遠慮なく頼んで。あ、これは仕事の一環だから私がご馳走するからお金の心配はしないでいいよ」

「でも。あの…」

「仕事だから」


 こうやってみるとお兄さんは箸の上げ下ろしにも優雅さがあって、仕事をする上で恥ずかしくないようなマナーを身に付けた大人だった。
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