君をひたすら傷つけて
 丁寧に作られた豆板醤の香りがよくチリソースに辛さとコクを出していた。思った以上の辛さにキュッと目を閉じるとプリッとしたエビの甘味が口の中に広がる。辛いのをエビの新鮮なものが持つ甘さが中和する。この味は癖になりそうだった。

『美味しいね』と言おうとした時にお兄ちゃんはサークルに入るようにと言ったのだった。


「サークルは見学にも行ったし、体験にも行ったけど入ろうとかにならないよ。もう二年になるし、大学の単位は計画通りに取れているからそれでいいでしょ。大学は勉強するところだよ。サークルは入りたい人が入ればいい」


 お兄ちゃんの言いたいことは分かるけど今の私は自分の生活をすることだけが大事だった。それに今は春。桜の花が咲き始めている。まだ、義哉が亡くなってから一年。桜の花の咲くこの春という季節が悲しい涙で包まれている。一年経った今でも私は苦しさの中にいた。

 踏み出せない私がいる。

「雅が勉強を頑張っているのは分かっている。でもな、もう少し人と出会うことも大事だと思う。サークルに入ったりバイトをしたりといろいろあるだろ。それに恋もしていいと思う」


「こんな風に会うのが迷惑ってこと?恋は今もまだ義哉にしているからそれでいいでしょ」


「何もそんなことは言ってないだろ。ただ、雅の将来を考えるともう少し視野を広げることはが大事だと思っただけだよ」
< 177 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop