君をひたすら傷つけて
 新入生歓迎の飲み会の後、サークルの部屋に行くと女の先輩の座っているテーブルに連れて行かれ、お兄ちゃんの事を聞かれた。勉強ばかりしていて、飲み会でも大人しかった私に社会人の彼が居たということが女の先輩たちの好奇心を煽っていた。

 その原因はレンジ先輩だった。

 私を駅まで送った後に二次会に合流した時に聞かれたことが『驚くほどの尾ひれ』を付けた状態でサークルに広まっていた。

『藤堂雅の彼氏はスーツを着たイケメンで溺愛している。デキる男だった』と。

 彼氏というのは嘘だけど、お兄ちゃんはスーツをきちんと着こなすし、真面目だし、整った顔をしている。多分、私は知らないけど仕事も出来そうだと思う。でも、溺愛というのは少し違う。

 義哉が亡くなってしまった心の空洞を持て余した私が心配で世話を焼いてくれているだけ。でも、その言葉を否定しなかったのはお兄ちゃんがあの日、仕事を抜け出してまで来てくれた意味が無くなるから。


 それにしても…溺愛って。

 言葉というのは表現によってこんなにも違うものだと思った。

 
 そして、私はお兄ちゃんに会って食事をするという生活も続けている。それがいいのか悪いのか分からないけど、お兄ちゃんと居ると落ち着く。依存しているとは分かっていても今はまだ離れることが出来ない。

 早くお兄ちゃんに彼女が出来て欲しいと思うばかり。


 でも、転機は私の方に訪れた。
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