君をひたすら傷つけて
 月明かりの中。儚げな月の光を背に受け、私に影を成すアルベール・シュヴァリエはニッコリと微笑んだ。綺麗だと平然に零す彼の方がもっと綺麗だと思った。

「こんなところに天使が居るのかと思った」

 日本ではこんな風に女性を褒めることは少ない。褒められ慣れてない私は違和感を覚えるだけで、何を考えているのだろうと考えてしまう。真っ直ぐに見透かすようなクレーの瞳が月の光で輝くように見えた。

「ありがとうございます。それと今日はお疲れ様でした」

「そうは言いながらも眉間に皺が出来てる。そんなに警戒しないでいいよ。危害を加えるつもりはないし」

 私がハッと自分の眉間に指を当てるのを面白そうに見つめる。そして、クスクスと魅惑的な微笑みを零すと私を見つめニッコリと微笑んだ。

「そんなところは可愛い」

「からかわないで下さい」

「そんなことするほど暇じゃないよ」

 アルベール・シュヴァリエは何を目的としているのだろう?私が彼のとっての利益になるとは思えない。コレクション前のリハーサルの時に少し話しただけなのに、どうも分からない。モデルとしての彼はあのパーティの中に戻り、社交をする方がいいのではないだろうか。

「何か御用ですか?リズならまだ広間にいますよ」

「君とワインを楽しみたいと思うのは駄目?」

「そんなことはないですが、中に入られた方がいいと思います。中には有名なデザイナーも居ますから、シュヴァリエさんにとってあちらの方が有益だと思います」
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