君をひたすら傷つけて
「アルベール」

「え?」

「シュヴァリエと言われるより、アルベールと呼んでほしい」

 ファーストネームで呼べということだろうけど、まだ、今日会ったばかりの人で、それも世界でも有名なモデルのアルベール・シュヴァリエをファーストネームで呼ぶなんて、そんなの求められても困る。微笑みながらも私を見つめるアルベール・シュヴァリエは視線を外すことも許さないとでもいうような真っ直ぐさだった。

 その視線からそっと視線を外すとリズのいるパーティ会場を見つめた。自分から離れてしまったのだから、リズが私に気付くはずはない。名前を呼ぶだけならそれくらいなら出来る。

 大丈夫。私には出来る。

 フッと小さな深呼吸をしてから、夜の闇の中に小さな声を響かせた。語尾は少し震えていたかもしれないけど微かな声は夜の静けさに振動した。

「アルベール」

 アルベール・シュヴァリエは私が名前を呼ぶと軽く目を瞑り、そしてゆっくりと開けるとグレーの瞳に光を帯びさせたのだった。


「いいね。その響き。俺もファーストネームで呼ぶから。……雅。本当に綺麗だ」

 彼は私の名前を忘れてなかった。

「私の名前を憶えていたのですか?」

「当たり前だよ。藤堂雅さん」

 アルベールはハッキリとした日本語で私の名前を呼んだのだった。
< 298 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop