君をひたすら傷つけて
「まだ時間はいい?雅を連れて行きたい店があるんだ。食事が終わったらアパルトマンまで送るよ。特にワイン品揃えがいい」

「楽しみ。どんな店?」

「今日は初めてのお出かけだから、少し名前のあるビストロだけど、次回からはもっと庶民的な店にする」

「今日も庶民的な店でいいのに」

「俺も男だし、雅をエスコートしたいんだ。でも、ドレスコードはないから安心して」

「嬉しいけど」

「ん」

「緊張する。でも、ちょっと楽しみなの」

「多分、雅よりも俺が楽しんでいるよ。さ、行こうか」

 お酒が好きでふらっと出歩くのが好き。かといってブランドものとかを買うのではなくて、気に入ったものだけを買い、身に付ける。実際に驚くほど安いシャツでさえも、彼が身に纏うとそれが素敵に見えるから不思議だった。

 シャツとジーンズというラフな姿がよく似合っていた。

 食事に行った場所はパリでも有名なビストロだったけどドレスコードはなく、気軽で美味しく安心することが出来た。かと思えば、その次に誘われた時はデリをテイクアウトして川岸で食べたりもした。

 仕事の合間に何度もアルベールに誘われて食事に行った。どこに行ってもアルベール・シュヴァリエがあまりにも堂々としていた。

「そんなに気にしないで楽しもう。そうでないと勿体ないよ」

 そう言って大きな口を開けて笑う。それがアルベール・シュヴァリエだった。
< 305 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop