君をひたすら傷つけて
 さっきまでの甘い雰囲気を一瞬に消し去ったアルベールは三本目のワインを頼んだ。今日は本気で飲むつもりみたいだった。二日酔いになったらどうしようという私のグラスに並々とワインを注ぐ。

 アルベールの言葉は嘘ではなかった。私とアルベールはバーが閉まる時間まで店で飲み、その後はまた別な店に行きワインを飲む。フランスに来て、ワインに慣れたと言ってもこんな風に飲んだことはない。私の足元はフワフワと浮いているようにさえ感じるし、横にいるアルベールもさすがに酔いが回っているようだった。

「歩けなくなったらどうするの?」

「おぶって歩くよ」

「恥ずかしいよ」

「なら横抱きにする」

 横抱きって…お姫様抱っこ?そっちの方が恥ずかしい。

「自分で歩く」

「残念」


 何件目かの店を出ると、遠くの空が白くなりつつなっていた。日本に比べたら治安の悪いフランスでこんなことをしたのは初めてだった。アルベールが一緒にいるから出来ることであって朝の光をこんな酔った状態で見たのは初めてだった。足元がふらつく私をアルベールはそっと支えてくれた。見上げると綺麗な笑顔がそこにはある。端整な顔に浮かぶ優しさを感じた。

「この時期でよかった。これが冬なら二人で凍死だね。山とかで凍死なら分かるけど、こんなパリのど真ん中で凍死とか恥ずかしい」

「確かに。でも、飲み過ぎだわ。足元がフラフラする」

「でも、たまにはいいだろ。明日は二日酔いかもしれないけど」

「明日じゃなくてもう今日よ」

「そうだな」
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