君をひたすら傷つけて
「元気でね。約束は守ってね」

 そう言って涙をいっぱい浮かべた顔でまりえは日本に帰国して行った。空港でまりえの乗った飛行機を見送っていると後ろからリズがそっと抱き寄せてくれた。

「そんなに悲しい顔しないの」

「寂しいもの」

「そうね。寂しいわね。でも、まりえにはまりえの人生があるのよ。だから、友達は応援しないと」

 まりえが帰国して私とリズの二人暮らしが始まった。私が思っていたよりもまりえが私とリズの生活に深く入り込んでいた。空虚感を感じているのは私だけではなく、リズも同じで、ふと、まりえの使っていた部屋のドアに視線を移し眺めている。

 私と同じようにまりえのことを考えているのだと思う。そして、まりえの居なくなった穴を埋めるように私もリズも仕事に没頭するのだった。まりえが帰国して一番変わったのは私の生活かもしれない。リズが仕事で帰れない時はアルベールと一緒に過ごすことが増えていた。

 あの時のように起きられないくらいまで飲むことはなかったけど、一緒に過ごす時間が増えていく。リズの仕事は忙しさを増していて、学校に通っている私はフランスでの仕事しかしないけど、リズはヨーロッパ中を飛び回っている。学校という縛りが無ければ、リズと一緒に仕事をして回ったと思う。でも、自分の中で確固たる自信が欲しかった私は学校をないがしろには出来なかった。
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