君をひたすら傷つけて
「今日は俺の部屋に来ないか?」

 そう誘われたのはリズが長期の泊りがけの仕事でアパルトマンを空けている時だった。同じ世界にいるだけあって、アルベールにリズの大まかなスケジュールを把握することは出来る。私が誘うこともあれば、アルベールからの誘いもある。そんな中での含みのある意味を考えてしまいそうな言葉に一瞬時間が止ったかと思った。

 いつもは行きつけのビストロかバーなのに…今日はアルベールの部屋。私は驚いて、アルベールの方を見ると…その瞳には熱っぽいような色香を醸し出していた。冗談という感じではない。

「どうして?」

 今日に限って私を自分の部屋に誘う理由が知りたかった。

「今日は二人でゆっくりと飲みたい気分だったんだ。でも、雅が嫌ならいいよ。いつものビストロでいいし」

 今日は雑誌の撮影で私は仕事で来ている。アルベールもモデルとしての仕事で来ていて、仕事の合間でのことだった。断るのは簡単だった。『嫌』と言えばそれだけで済む。嫌という私を無理矢理誘ったりするアルベールではない。

 会う回数が増える度に私の中でのアルベールの存在が大きくなっている。たくさんの知り合いが増えた中で、リズの次に私の中で大きな位置をアルベールは占めている。でも、部屋で飲むという意味が分からないほど私は子どもではない。アルベールはその誠実な心から私を真剣に思い、私の殻を破ろうとしているのだろう。

 怖がらないように優しく。
 怖がらないように愛しさを込めて。
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