君をひたすら傷つけて
 そんな思いに私は…。進んでみようかと思った。義哉のことを忘れることが出来ない私でもいいとアルベールは時間を掛けて教えてくれた。今のままの私でいいと…。私は息を吐いて、頷こうとした瞬間、スタジオの入り口から視線を感じた。その視線に自分の視線を合わせると大きく心が揺れる。

 最後に会った時を思い出させるようなスーツを着込んでいるお兄ちゃんがそこにはいた。お兄ちゃんは私を見つめて、視線は合ったはずなのに急にスタジオから出て行ってしまう。ここに来たということは私に会いにきてくれたのではないの?私に気付かなかったはずはないのに。

 お兄ちゃんのことで頭がいっぱいになる。

 そんな私をアルベールは心配そうに見つめ、静かに瞳の中を覗き込んでくる。私の瞳にアルベールは映っている。でも、私はお兄ちゃんが気になって仕方ない。大事な話をしていたのも私の頭の中から飛んでしまっていた。

「雅。どうした?俺の部屋が嫌なら、いつもの店でいい」

 アルベールは私がアルベールの部屋に行くのを嫌がって何も言わないと思ったのだろう。行きたくないとかそんなんじゃなくて…今はお兄ちゃんが気になる。

「いや、あの。ごめん。後から連絡する。今は行かなきゃ」

「雅!!」

 私はアルベールの返事もそこそこにスタジオの入り口に向かって走っていた。
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