君をひたすら傷つけて
 フランスまでお兄ちゃんが来てくれたなら、なんで私に会わずに帰るのだろう。スタジオのドアを開けて外に出ると眩しい光が私を包む。暗がりから一気に明るい場所に出た私の目は眩み、一瞬目の前が真っ白になる。


『お兄ちゃんを見失ってしまう!!』そう思った。お兄ちゃんのことで頭の中がいっぱいになる。

 なんで帰るの?

 眩さに目が慣れるとそこにはお兄ちゃんの姿はなかった。どこに行ったのだろう?辺りを見回してもお兄ちゃんの姿はない。必死に走ってスタジオの門のところまで行くと、ちょうどタクシーに乗ろうとしているお兄ちゃんの姿を見つけた。今にも車内に吸い込まれてしまいそう。

「お兄ちゃん!!!」

 私は必死に走りながら、スタジオの門のところに行くと、私の声に気付いたお兄ちゃんがタクシーに乗り込もうとする動きが止った。お兄ちゃんの瞳に私は映っている。静かに私を見つめるお兄ちゃんは私を見つめ、ニッコリと微笑んだのだった。

「雅。久しぶりだな」

 お兄ちゃんは乗ろうとしていたタクシーを断り、私の前に立つ。三年の年月はお兄ちゃんを以前よりも穏やかな空気が包む。元々落ち着いて穏やかな人だったけど、月日の流れはお兄ちゃんを一段と違って見える。見知っている人なのに知らない人のようにも感じる。

「どうして、フランスに?それに、どうしてここまで来たのに帰ろうとするの?」

 息が切れながらの私の言葉にお兄ちゃんは優しい微笑みを浮かべる。お兄ちゃんは私に会いに来たのではなかったのだろうか?
< 335 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop