君をひたすら傷つけて
「アルベール。始めようか」

「はい」

 気分を乗せようとするカメラマンの言葉をウイットに富んだ切り返しをしながら、私の方に視線を送り、綺麗に微笑む度にシャッターが切られる。こんな風にライトの中にいる姿はいつも以上に輝くように思えた。

 雑誌とブランドのコンセプトに沿って行われる撮影は熱気を帯びてくる。ライトもフラッシュも眩い。でも、その光の中でもアルベールは圧倒的な存在感を示していた。様々なポーズの合間に流れる視線が私に注がれるのを感じた

 顔が火照りそうになるくらいに、綺麗で熱を帯びていて。視線にドキドキする。

 私の仕事は学生ではあるけどスタイリストとして働いている。スタイリストの仕事はモデルであるアルベールを完璧にサポートすること。洋服や小物を用意したり、乱れた髪を戻したり、汗をハンカチでおさえようと近づくと…。ふわっと微笑み目を閉じる。伏せた睫毛の長さに心臓が飛び跳ねてしまう。

「ありがとう」

「いえ。後は大丈夫ですか?」

「ああ」

 少し目を細めたアルベールは静かにライトの中に戻って行く。次々に切られていくシャッター音を聞きながら、私はずっとアルベールを見つめていた。

 今日のアルベールの表情がよかったのか、気持ちの乗ったカメラマンはいつも以上に真剣に撮影に臨んでいた。その結果、撮影は深夜まで続いた。そろそろ終わろうかという雰囲気になった時間は今からお兄ちゃんに連絡してもどうしようもないと思われる時間だった。
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