君をひたすら傷つけて
 メールだけして今日は終わらせようと思ったけど、仕事のついでとはいえ、ここまで私に会いに来てくれたお兄ちゃんのことを思うと電話がいいのかと悩む。

「今から会うのか?」

 荷物の整理を終わらせている私の横に来たアルベールの声が頭の上から降ってくる。アルベールは私にとってお兄ちゃんの存在がどれだけ大きいかを感じているのだろう。

「うん。でも、寝ているかもしれないし」

「待っている」

「え?」

「俺があの人なら待っている」

 私がアルベールを見ると、アルベールのちょっとだけ困ったような顔をした。そして、唇を少し噛むと静かに声を響かせた。

「待っていると思うから。…。雅。……いや。何でもない。楽しんでおいで」

 アルベールは何かを言いかけて言葉を濁した。

「うん。ありがとう。連絡だけしてみる」

「そうだな。じゃ、俺は先に帰るよ」

「お疲れ様でした」

 アルベールと個人的に友人関係であったとしてもスタイリストとしての私はこの撮影のスタッフの一人でしかない。最後まで片づけをして外に出ると自分が思っていたよりももっと遅くなっていた。アルベールが言ったようにお兄ちゃんは待っていてくれるような気がする。普通の人なら躊躇してしまいそうな時間に私はお兄ちゃんに電話をした。

 思ったよりも遅い時間、もう食事は終わらせたかもしれないと思ったけど、お兄ちゃんに電話をする。

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