君をひたすら傷つけて
 少しでも一緒に居たいと思った。もっとお兄ちゃんと一緒に居たいと思った。話したいこともいっぱいあったし、聞いて欲しいこともいっぱいあった。

「アパルトマンまで送るよ。私のホテルもそんなに遠くないから、雅のアパルトマンの近くからタクシーにでも乗る」

「いや。まだ、帰りたくないの」

「雅は明日は休みなんだろ。明日、少し早い時間から会えばいいだろ。準備が出来たら迎えに行くから」

「いや。まだお兄ちゃんと一緒に居たい」

「我が儘だな。今日は仕事で疲れているだろ。帰って寝た方がいいよ。明日、雅には色々な場所に案内して欲しいんだ」

 そんな言葉にお兄ちゃんは首を振る。まだ帰りたくないという我が儘が私の中で頭をもたげてくる。緩やかな酔いは私を子どものようにしてしまっていた。

 そんな私にお兄ちゃんは怒るどころか、ちょっと困った顔をしている。ここは日本じゃない。ここが日本なら、お兄ちゃんが素敵なお店を探してくれるだろう。

 でも、ここはフランスのパリ。

「もう、店が開いてないだろ。どこか雅は知っているか?」

 朝まで開いているような店は少し騒がしいところが多い。お兄ちゃんと一緒に時間を過ごすには少し煩く感じるだろう。私はこんな遅くに行く店を知らない。知っているのはアルベールと一緒に行った店くらいで、あのどうしようもないくらいに苦しんだ二日酔いを思い出す。

 それに、なんとなくアルベールの誘いを断ったからか、あの店に行くのは気が進まなかった。
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