君をひたすら傷つけて
「そんなことはしないよ。雅を傷つけたりはしない。」

『傷つける』そんな言葉に心の奥が音を立てた。

 昔、義哉が私の零した言葉が頭の中に蘇る。私を愛するということは傷つけると言った。義哉は未来がない自分のことを思うと私との恋に進めないでいた。

 そんな義哉を私は好きだった。

「ねえ、お兄ちゃん。じゃあ、明日は何時に迎えにきてくれるの?」

「雅が望む時間に必ず行く」

「そんなに酔っているのに?」

「ああ。雅が思う以上に酔ってないから大丈夫だよ。雅が起きたら連絡して。そうしたらすぐに迎えに行く」

「わかった。自分のアパルトマンに帰る」

 私がそういうと、お兄ちゃんはそっと安心したような顔を見せる。我が儘に困っていたのかもしれない。でも、『わかった』と言った今でも、お兄ちゃんと離れたくない感情が心の中に渦巻いている。

「明日はずっと一緒にいるから覚悟してね」

「私も雅と一緒に居たい」

 お兄ちゃんの言葉にそれからの私は素直だったと思う。夜の街を歩きながら、横を見上げると、お兄ちゃんが笑っていて、手が触れそうなくらいの距離で、時折、手が触れそうになって…。

 私が危なくないように気を遣いながら歩いてくれるのを感じるとふわっとした気持ちに包まれていた。
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