君をひたすら傷つけて
 リズの居ないこの部屋はあまりにも静か過ぎる。一人でいるのは苦手だった。リズが居て、まりえが居て。私はフランスで寂しさを感じたことは殆どない。お兄ちゃんと一緒にホテルの部屋で飲みたいと言ったのは私の甘えた感情でお兄ちゃんを困らせるものだったと思う。

 私がどんなに思っていても、お兄ちゃんと私は他人で客観的に見て、深夜にホテルの部屋でお酒を飲むというのはよくない。お兄ちゃんは男で私は女。

 お兄ちゃんが私を傷つけるということはない。それは私も分かっているから甘えたのだと思う。世間一般的にはどうであれ一緒に居たかった。

「傷つけるかぁ」

 頬に零れた涙を拭い、ベッドの横のサイドテーブルに手を伸ばすと引き出しの中から義哉の写真を取り出した。何度も何度も見た写真には変わらない笑顔がある。私はどんどん年を取るのに義哉は変わらない。

「ずっと義哉のことを好きでいいよね。だって、今も誰よりも好きなんだもん」

 義哉の写真を抱きしめて目蓋を閉じるとつい昨日のことのように義哉への愛しさが募ってくる。たった二か月の短い恋だったけど私にとっては初恋で今も続いている。

 あの日、義哉が言った『傷つける』の意味は今日お兄ちゃんが言った『傷つける』だったらよかったのに。義哉の言ったのは未来がない自分が傍に居ることで私のことを悲しませることになるからという意味で、お兄ちゃんが言ったのは私のことを抱くということにより傷つけるという意味。
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