君をひたすら傷つけて
「少し遅くなったけど卒業祝いだよ。花束とかは撮影で見慣れているだろうけど、雅に似合うと思ったんだ」

 丸く作られたブーケタイプのピンクのバラの花束には真紅のサテンのリボンが巻かれていて可愛いのに品もある。センスのいいアルベールらしい。ピンクのバラも一種類だけではなく、花びらの形や花の形が違うものが丁寧に纏めてあった。

「ありがとう。嬉しい。凄く綺麗ね」

「気に入ってくれたらよかった。どのバラを選ぶか悩んだけど、少しずつ色々な種類を選んだ。雅は綺麗だけど可愛いからね、さ、ワインで乾杯しよう」

 テーブルに届いたグラスにワインが注がれ、アルベールとの時間は始まった。一緒に時間を過ごすのは久しぶりだったけどそれでも優しいアルベールの雰囲気に身体の強張りが解けていくような気がした。

 私の中に、あの日、アルベールが誘ってくれた意味を分からないわけではない。気持ちに気付かないほど私は鈍感にはなれなかった。だから、私から誘いにくかった。

「そんなに構えなくてもいいよ。雅のことは分かっている。今日、どんな思いでここに来たのかも」

「え?」

「雅は今日、来た時から緊張している気がする。別に俺といる時に緊張とかしないでいいのにと思うけど、あの日の事が気になっているんだろうとは思っている」

「そんな…」

「俺がどれだけ雅のことを見ていたと思うの?でも、最初よりは少しマシになったかな?最初、このビストロに入ってきた時に雅が緊張しすぎているのを見て、こっちがどうしようか思ったよ」

 そう言ってニッコリと微笑み、アルベールは綺麗な顔を私の方に見せた。
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