君をひたすら傷つけて
 アパルトマンの下で私の時間は止まっていた。そして、その時間を動かしたのはアルベールだった。私の身体を優しくそして、強く包んだ腕の力を緩めていく。その腕にポタッと私の瞳から零れた涙は頬に真っ直ぐな軌道を作り零れ落ちた。

 言葉に出来ない思いが私の中で溢れていた。

『ごめんなさい。私は恋は出来ない』

 何をどうやって伝えたら、私の思いの全てを伝えることが出来るのだろう。誤魔化すことは出来ないけど、自分の心を表す言葉はアルベールの思いを受け入れることが出来ないということだけ。好きだけど、私は愛せない。

「傷つけたくないの。ごめんなさい」

 アルベールが素敵で優しいから、幸せになって欲しいと思う。だから、私じゃない方がいい。もっと、心の奥底からアルベールのことを思い、アルベールの為だけに生きていける人がいるはずだった。

「雅が忘れられない恋をしていることも知っている。だから、いいよ。それも分かっている。雅が俺が傷つくと思っているかもしれないけど、俺は傷つかない。それで、雅の一番近くに居れるなら。雅が傍にいるだけで俺は強くなれる」

 振り向くと私の言葉を聞いて微笑むアルベールと視線が絡む。なんて魅力的なんだろう。何度も輝くスポットライトの中のアルベールを見てきた。でも、それも霞むほどの光を纏わせている。

「私は義哉を今でも好きなの」

「それでもいい。雅が泣きたい時にそっと抱きしめられるだけでいい」

「馬鹿よ。いくらでも幸せになる道があるのに」

「俺はそれだけで幸せなんだから傍に居てくれるだけでいい」
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