君をひたすら傷つけて
 リズの満足げな顔に見送られてスタジオを出ると外は思ったよりも少しの肌寒さを感じる。もう秋も終わり足早に冬が近づいてきていた。季節は変わっていくのにあの春の桜の散る中の思いが今も心の中に残っている。

「義哉」

 今からアルベールに会うのに、私の心は義哉で一杯で、それなのにアルベールに会うという私は客観的に見たらよくないと思う。でも、アルベールはそれでいいという。

 駅までの道を歩きながら空を見上げると鉛色が視界を覆う。雨が降る気配はないけど、こんな風な曇天は気持ちが滅入る。今からアルベールに会うのは嫌なわけじゃない。こんな風にいつもと違う自分で会いに行くことに少しの躊躇いを感じずにはいられない。

 普段は着なれないワンピースもちょっと歩くだけでよろけそうなヒールも、いつもの私とは違う。

 私はアルベールの思いに応えているわけではない。こうして会いに向かっているのに、どうしようもなく不安になる。アルベールに過度の期待をさせるのではないかと。ディーさんのワンピースは綺麗すぎる。

 いつもなら一緒に食事をしてバーで飲み直すのがいつものこと。

 でも、いつもとは違う。

 待ち合わせのカフェに入り、中を見回すとそこにアルベールの姿はなかった。仕事が終わるくらいの時間を見計らってきたけど、私の方が早かったようだった。
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