君をひたすら傷つけて
 私は窓際の席に座るとガラス越しに人の流れをみていた。この時間は幸せそうに腕を組み歩く恋人たちを見ながら私は緊張していた。今日は私とアルベールにとって新しい関係が始まる日だった。とはいえ、私は心の中で揺れている。アルベールの気持ちは私に伝わっている。嫌いではないし、どちらかというと好意もある。だから、答えは一択なのに悩む。

 気分を落ち着けるためにコーヒーを頼みいつもよりも多めに砂糖を入れたのはいつもと同じでは味を感じなかったからだった。多めに入れて甘すぎたかなと思ったけど、鼻を抜けるコーヒーの香りはいつもと同じだった。ミルクが多めで砂糖も多めなのに普通に感じる。

 子どもが喜んで飲みそうなくらいになったコーヒーは今日の私にはちょうどいい。

「雅?」

 コーヒーの入ったカップを両手で持ち声が聞こえた方を振り向くと、目を見開いたアルベールの姿がそこにはあった。視線が座っている私の頭の先から足先まで流れるのを感じた。いつもとはまるで違う恰好をした私はこのまま帰って着替えたい気分に包まれる。ワンピースなんて私らしくない。それにリズによって念入りな化粧もされている。

 シャツにジーンズがいつもの恰好の私が有名デザイナーの手がけたワンピースを身に纏っているのだから、緊張もする。それに、結い上げてはないけど髪は綺麗に巻かれてもいた。リズは褒めてくれたけど、いつもの私からすると全く違うこの恰好は気恥ずかしさが襲う。このまま走って逃げて行きたいとさえ思った。でも、私を見つめるアルベールの瞳は優しかった。
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